「働く」こと、それは生活費を稼ぐのみならず生き甲斐や豊かな人間関係を育む等、社会で生きることと直結する重要な営みです。
そこで、使用者との関係で立場の弱い労働者を守るための労働法体系が作られています。
例えば、会社の業績が悪いという理由だけで、給与が突然カットされた、解雇されてしまったという話をよく聞きます。
しかし、解雇・賃金カットには厳しい要件があり、使用者が意のままにできるものではありません。
また、最近では、過労死の問題、パワハラ・セクハラの被害も増えています。手遅れになる前に当事務所にご相談いただき、従業員としての地位と賃金を守りましょう。
よくあるご相談の例
1 解雇・退職に関するご相談
Q1 会社を辞めようと思い、会社に退職を申し出たのですが、会社が「絶対に辞めさせない」と言って、退職届を受け取ってくれません。どうすれば会社を辞められますか。
A1 有期雇用契約でない場合は、退職の申し出の日から2週間が経過すれば、会社が退職を承諾しなかったとしても退職の効果が生じます(民法627条1項)。このような方法で退職をする場合、会社が退職届を受け取った日を確実に知るため、内容証明郵便を用いて退職届を送付することをおすすめします。
Q2 有期雇用契約で働いているのですが、会社から、「次回の契約は更新しない」と言われてしまいました。私は働き続けたいのですが、どうすればいいでしょうか。
A2 有期雇用契約であっても、①更新が反復継続していたり、②契約が更新されるはずだという期待を抱くことが当然と考えられる状況がある場合には、会社は、契約の更新を拒絶することができないとされています(労働契約法19条)。
具体的な事情によって、このような主張ができるかどうかが異なりますので、ご相談の際に詳しい事情をお聞かせください。
Q3 会社から解雇を通告されました。会社に対して、解雇の撤回を要求したいのですが、私の主張は通るでしょうか。
A3 解雇には「合理的な理由」と「社会的な相当性」が求められており、それらがなければ解雇は無効となります。
なお、解雇には以下のような種類があり、その種類によって、主張すべき具体的な内容が異なります。ご相談の際に
解雇理由書や
就業規則をご持参いただけると、会社に対してその解雇が無効であると主張できるかをより正確に判断できます。
- * 普通解雇
- 例)ノルマ不達成や能力不足、傷病などを理由とする解雇
- * 整理解雇
- いわゆるリストラです。整理解雇には、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の相当性、(4)労働者との協議・説明が必要とされています(いわゆる「整理解雇の4要件(要素)」)。
- * 懲戒解雇
- 就業規則上の規定(懲戒理由)に該当したことを理由とする解雇
Q4 解雇を通告され、会社から給料が支払われなくなりました。会社に戻りたいので、解雇無効を主張して争いたいのですが、係争中の生活が不安です。収入を確保する方法はありますか。
A4 係争中の収入を確保するためには、以下のような方法をとることが考えられます。具体的な事情によっては他の方法もあり得ますので、ご相談の際に詳しくお聞かせください。
- * 地位保全及び賃金仮払い仮処分
- 仮処分手続によって、会社に対して賃金の仮払いを求める方法です。仮処分手続は比較的早く結論が出るようになっていますので、係争中の収入確保の手段となり得ます。
- * 雇用保険の仮給付
- 一定の要件を満たせば、雇用保険(失業保険)の仮給付を受けることができます。あくまで「仮」の給付なので、解雇無効の主張が認められて復職できた場合などは、給付金を返納する必要がありますが、係争中の収入源として利用を検討すべき制度です。
2 未払賃金・残業代に関するご相談
Q1 会社が倒産してしまいました。支払いを受けていない給料があるのですが、あきらめなければいけませんか。
A1 倒産した会社から直接支払いを受けることは困難ですが、要件を満たしたケースの場合、一定額を政府が会社に代わって立替払いする制度(未払賃金の立替払い制度)を利用することができます。労働者健康安全機構がその制度を運用していますので、ご相談されるといいでしょう。
Q2 何年にもわたって長時間労働を続けているのですが、会社は残業代を全く支払ってくれません。資金繰りが苦しいためか、最近は、給料も一部しか支払われなくなりました。どうすればいいでしょうか。
A2 支払時期から2年以内のものであれば、給料も残業代も会社に対して請求することが可能です(支払時期から2年を経過したものは時効にかかってしまいます。なお、支払時期が2020年4月以降のものの時効は3年になります。)。
ただし、請求をしたとしても、その時点で会社に資金がなければ実際に支払いを受けることはできなくなってしまいます。
このケースの場合、時効や会社の支払能力を考えると、早急に請求をして支払いを確保する必要があります。早めのご相談が肝心です。
Q3 私が勤めている会社にはタイムカードがありません。タイムカードがなければ、残業代の請求はできないのでしょうか。
A3 残業代の請求をするためには、実労働時間(何時から何時まで働いたか)を証明する必要がありますので、タイムカードがあれば有力な証拠になりますが、タイムカードでなければ証拠として認められないというものではありません。例えば、業務日報や勤務のシフト表、メール、私的なメモや手帳なども、実労働時間の証拠として認められる場合があります。
また、そういった資料が全くない場合でも、店舗の営業時間などから一定の実労働時間が認められるケースもあります。簡単にあきらめてしまわずに、ぜひ一度、ご相談ください。
3 労働災害に関するご相談
Q 私は建設会社に勤務しています。先日、現場でケガをしたので、労災保険を使いたいと申し出たら、会社から「労災にはしない」と言われてしまいました。ケガが重く、しばらく働けそうにないのですが、会社は「休んでいるのだから給料は支払わない」とも言っており、とても困っています。どうすればいいでしょうか。
A 労災保険給付の申請は、会社の承諾がなくても行うことができます。具体的な手続については、最寄りの労働基準監督署で案内を受けることができます。
労務環境が不適切なケースなど、会社に安全配慮義務違反がある場合は、会社に対し、本来の給料の額と労災保険給付との差額や、後遺症の慰謝料などを損害賠償として請求することもできます。ご相談ください。
4 パワハラ・セクハラに関するご相談
Q1 職場で上司から嫌がらせ(皆の前で「お前は無能だ。左遷してやる」「スタイルが悪いな。それじゃモテないぞ」と言われる、等)を受けています。社内の相談窓口に相談してみたのですが、状況は全く良くなりません。どうすればいいでしょうか。
A1 会社には、良好な職場環境を保つ義務があります。このケースのように、社内の相談窓口に相談しても改善が見られない場合は、①労働局に相談して会社に対する助言・指導・勧告を行ってもらう方法や、②労働組合による団体交渉、③弁護士に交渉を依頼して職場環境の改善を要求する方法をとるといいでしょう。
Q2 同僚が見ている前で、上司から大声で叱責された上、平手打ちされました。これまでにも同じようなことがあったので、もう耐えきれず、出勤できなくなってしまいました。上司や会社に償ってほしいのですが…。
A2 上司や会社に対して損害賠償(慰謝料など)を請求できる可能性がありますが、まずはお身体をいたわりましょう。上司や会社に対抗していくには、体力や精神力が必要になります。不眠などの状態に陥っている場合は、ぜひ医師にもご相談ください。
訴訟を起こす方法で損害賠償請求をする場合には、上司がそのような行為をしたことを証明する必要があります。証拠としては、録画や録音だけでなく、メールやメモ、同僚の証言など、様々なものが考えられます。ご相談の際にご持参いただければ、証拠としてどの程度の力を持ちうるか判断できますので、ご準備ください。
5 労働問題の解決方法に関するご相談
Q 会社との間の紛争を解決する方法には、どのようなものがありますか。
A 手段としては、以下の方法が考えられます。
- (1) 労働局のあっせん手続
- 労働局の紛争調整委員会が労使間の紛争解決の助力を行う手続です。紛争調整(あっせん期日)は1日で終わりますので、労使間の協議が整えばスピード解決となりますが、当事者に対してあっせん期日への出席を強制することができない等のデメリットもあります。
- (2) 団体交渉
- 労働組合に加入して会社と交渉を行う方法です。あなたの会社に労働組合がなくても、個人で加入できる労働組合などがありますので、そのような労働組合に加入して団体交渉を試みることができます。
- (3) 労働審判
- 裁判所に労働審判の申立てをする方法です。労働審判とは、労使間の紛争解決をするために特別に設けられている方法で、3回以内の期日(期間としては申立てから3ヶ月程度)で話し合いもしくは裁判所の判断に従う形(審判)による解決を目指します。
- 比較的短期間で解決に至ることができる制度ではありますが、短期間で決着させることを前提とした制度だけに、申立ての時点でしっかりとした主張と証拠の整理ができていることが求められます。労働審判の申立てをご検討の場合は、弁護士に依頼して行うことをおすすめします。
- (4) 訴訟
- 裁判所に訴えを起こす方法です。労働審判と異なり、期日の回数制限がないため、複雑で争点が多いケースの解決に向いています。
- 労働審判以上に主張と証拠の整理が求められるため、弁護士への依頼をした方が適切な解決につながります。