前回のブログでは,相続が発生した際のマイナスの財産の調査について,お話しをしました。今回は,プラスの財産の調査についてです。
①預貯金について
まず,財産として一番に思い浮かぶのは,預貯金です。お手元の通帳,金融機関などからのダイレクトメールや「たしかあの銀行に口座があったはず」という記憶を手がかりに,思い当たる銀行に問い合わせをすればOKです。
しかしながら,ネットバンキングの場合には,通帳もありませんし,ダイレクトメールもご本人のメールアドレス宛に届きますから,ご本人のスマートフォンの中味を確認出来ない限り,「思い当たる節がない・・・」と手がかりがありません。スマートフォンしか手がかりがないのにロックが掛けられていて見られないという時は,弁護士としても困り果ててしまいます。力技で,めぼしいネットバンキングに口座の有無の照会を行うことも考えられますが,無数のネットバンキングがあることから,現実的とはいえません。クレジットカードの引落口座に設定していれば,クレジットカード会社経由で口座情報を得られることもありますが,幸運なケースです。
インターネット上で取引が完結し,本人のスマートフォンから確認することが出来ない場合のリスクは,暗号資産や電子マネーも同様です。
②不動産について
次に,思い浮かぶのは不動産でしょうか。住居として過ごしていた建物・土地のみという場合には話は簡単ですが,「いくつか土地をもっていた筈だ」,「何処の土地かわからない」という場合もあるかと思います。
その時は,市役所に行き,固定資産課税台帳(名寄せ台帳)を取得します。これにより不動産の内容,所在地,固定資産税評価額等が確認出来ます。これは,市町村単位で管理しているもので,当該市町村において,誰が何処に何の不動産を所有しているのかを記載したものになります。もっとも,複数の市町村で不動産を所有している場合には,各市町村でそれぞれ取得しなければならないので,注意が必要です。
③株式について
株式の場合,まず,手がかりになりそうな資料がお家の中にないかを探します。通帳の履歴や確定申告書に記載がないかを確認しましょう。
上場会社の場合には,取引報告書,評価報告書等があれば,証券会社を確認できます。証券会社に確認すれば,どこの会社の株を持っているかがわかります。また,株券発行会社がわかれば,発行会社や株主名簿管理人(信託銀行など)に確認することもできます。どこの会社の株を持っていたかもわからない場合には,証券保管振替機構に加入者情報の開示を請求することで,調査することができます。
一方,非上場会社の場合には,お家の中に,株券や株主名簿記載事項証明書,株式を譲り受ける際の契約書がないかを探します。非上場会社の株式の場合は,証券会社や証券保管振替機構が管理をしていないため,上場会社株に比べて発見しづらいものとなります。
④生命保険について
生命保険に加入している場合もあります。まずは,お家の中の保険証券を探す,保険会社からのお手紙を探す,通帳の送金履歴などから,生命保険会社と関わりがあるかを調査します。
「お家の中は探したけれども,生命保険の有無がわからない」という場合には,生命保険契約照会制度の利用が考えられます。これは,生命保険協会に対し,契約の有無の照会を行うことができる制度です。手数料がかかりますが,手掛かりが無い場合には有用な制度です。
よくある財産の調査の方法について,ご紹介いたしました。
これだけを見ても,財産調査は骨が折れそうだということがおわかりいただけたかと思います。
相続放棄のための熟慮期間は,相続の開始を知った日から3ヶ月ですから,駆け足で調査をしなければならず,必要に応じて,熟慮期間の伸長の手続が必要になってきます。
残された家族に調査の負担を掛けないためにはどうすれば良いのか。次回は財産の所在を相続人に知らせるための方法について,お話ししたいと思います。
(弁護士 森美奈子)