大阪高等裁判所において,相手方の不貞行為を認定した上で,相手方の抗告人対する婚姻費用分担の請求は,信義則あるいは権利濫用の見地から,子らの養育費相当分に限って認められるべきであるとした裁判所の決定が出ています(大阪高裁平成28年3月17日決定【判例時報2321号36頁】)。
この判断自体,珍しいものではなく,同様の判断が多数あります。
↓こちらの決定は、養育費相当分に限定するのではなく、配偶者の最低生活維持費を認めています。
(札幌高裁昭和50年6月30日決定)
「夫婦間の前記扶助義務は,夫婦が互いにその生活全般にわたつて協力義務をつくすことを前提とし,いわば右協力義務と右扶助義務とは不即不離の相関関係にあるものと考えられるところ,婚姻関係の破綻につき専ら,若しくは主として責を負うべき者は,相手方に対し右協力義務をつくしていないものというべきであるから,その者が,右協力義務をつくさずして,相手方に対し,相手方と同一程度の生活を保持できることを内容とする扶助義務,ないし婚姻費用分担の履行を求めることは権利の濫用として許されないものといわなければならない。
しかしながら,たとえ前記のとおり婚姻関係が破綻していても,夫婦は,正式に離婚が成立しないかぎり,あくまでも夫婦としての地位を有するものであつて,その間を夫婦でない他人間の関係と同様に律つするわけにはいかないのであるから,夫婦であるかぎりその一方が生に困窮している場合に他方は,いかなる理由があるにせよこれを放置すべきでないというべきである。
そうだとすれば,右破綻につき責を有しない者も,夫婦であるかぎり,右破綻につき責を負う者に対し,少くともその者の最低生活を維持させる程度の扶助義務を負うものと解するを相当とする。
してみれば,婚姻関係の破綻につき専ら,若しくは主として責を負う者に対する他方の扶助義務ないいし婚姻費用分担の程度は,軽減せられ,右破綻につき専ら,若しくは主として責を負う者の最低生活を維持させるに必要な程度をもつて足りるものといわなければならない。」
他にもありますので,次回またご紹介したいと思います。
(弁護士 若狹 美道)