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「残業代ゼロ」…自分には関係ない?


2014.06.17労働事件


労働者の残業代をゼロにする法改正が検討されていることがニュースになっています。残業代ゼロの対象者が「年収1000万円以上」の高年収者となる見通しであるため,自分には関係ないニュースとお思いの方も多いのではないでしょうか。

 

実はこのニュース,注目すべき点は別のところにあります。「残業代ゼロ」のトピックに隠れて見えにくくなっていますが,年収が1000万円より低い労働者—-つまり,ほぼ全ての労働者—-に,「裁量労働制」の適用を拡大することが合わせて検討されているのです。
「裁量労働制」とは,端的に言えば,平日の残業代がゼロになってしまう制度です。深夜や休日労働については割増賃金が支給されますが,それ以外は何時間働こうが一定の時間数しか労働時間としてカウントされません。
本来,裁量労働制は,専門性や創造性が高い業務については時間の枠を設けることなく労働者自身の裁量で時間配分をするのが適切であるとして,例外的に設けられている制度です。「今日は夜遅くまで目一杯頑張るけれど,明日の午後は休もう」というように,労働者が,労働者自身の判断で労働時間を決められるのが裁量労働制のあるべき姿です。
しかし,現実には,労働時間の配分について労働者側に主導権はなく,長時間労働や残業代カットの方策として用いられる「裁量なき裁量労働」となってしまっていることが少なくありません。残業代もないままに,成果を上げるまで休むことを許されない……そんな過酷な働き方につながってしまっているのが,裁量労働制の現状です。

 

現在の制度では,裁量労働制が認められるのは専門性や創造性が高い特定の業務(研究開発やSE,デザイナーなどの19業務)と,本社の中枢部門における企画立案等を行う企画職に限定されていますが,今回の法改正では,この対象業務を営業職などにも拡大することが検討されているのです。
あるべき姿のまま正しく使われるのであれば,裁量労働制は悪い制度ではありません。しかし,会社と労働者の力関係の中で,裁量労働制は,会社にとって使い勝手のいい形に歪められてしまっています。この歪みを補正することなく対象業務の拡大をしてしまえば,より多くの労働者の疲弊を招くことになりかねません。
報道によれば,年内には,新たな制度の概要が固まるようです。「対象者は年収1000万円以上」という見出しだけでは分からない新制度のリスクに,今後も注目していかなければなりません。