『性犯罪被害にあうということ』 小林美佳・著(朝日文庫)
正直に言って、読み始めるにあたっての私は、これは「性犯罪被害に遭ったことで受けた想像を絶する精神的苦痛を乗り越えた方の手記」だと思っていた。
その思い込みは、私の「そうあってほしい」という勝手な願いが投影されたものだった。読むことでやっと、その勝手さに気付く。
乗り越えるなんて、そんな簡単にできるものじゃない。性犯罪被害は、あまりにも大きく立ちはだかる壁だ。
突き詰めて考えれば、時の流れが不可逆で、すべてを「なかったこと」にはできない以上、被害者が事件を終わらせることは不可能なことなのかもしれない。
この手記は、読み手が期待するような「完結」を拒絶する。でも、それこそが、性犯罪被害の実態なのだろう。